RAG とは?
チャットボットなどの大規模言語モデル (LLM) は、言語を素早く翻訳し、人間のような応答で顧客の質問に回答し、さらにはコードを生成することもできます。しかし、LLM はトレーニング中に遭遇した情報にしか精通していません。ビジネスや顧客に関する深い知識など、進化し続ける専門知識の分野に効果的に対応するには、LLM は最新データに触れる必要があります。再トレーニングや微調整も選択肢のひとつですが、そのプロセスには追加の時間とコストが必要となる場合があります。それでも、LLM は不正確な応答を生成することがあります。
RAG は、ますます人気が高まっている AI フレームワークであり、LLM がより正確で関連性の高い AI 応答を提供できるよう支援します。RAG は、LLM に外部のナレッジベースからのデータを補足し、LLM が、最も信頼性が高く、最新の情報にアクセスできるようにしています。この追加データにより、LLM は、最新かつ文脈的に意味のある回答を提供することができます。
企業環境では、RAG により、生成 AI に対するコスト効率の高いアプローチが組織に提供されます。基礎的な LLM と呼ばれる、既製の LLM は、幅広いトピックに対応できるようにトレーニングされています。しかし、ビジネスに特化した結果を生成するには、組織のデータに合わせてカスタマイズが必要な場合が多いです。RAG によって、組織は再トレーニングや微調整を行うことなく、独自のデータを LLM に注入でき、ドメイン固有の具体的なユースケースへの参入障壁が低減されます。
例えば、組織は従業員に、RAG ベースのチャットボットへのアクセスを提供し、生産性の向上に役立てることができます。休暇を計画するために、チャットボットに、今年の残りの休暇日数を尋ねることができます。チャットボットは、関連する情報を社内のデータベースから検索し、会社の休暇ポリシーや、あなたがすでに何日休暇を取得したかを引き出し、あなたが何日仕事を休むことができるかを算出します。
組織の記録についてトレーニングを受けていない基礎的な LLM は、答えを出せないかもしれないし、もっと悪いことに、自信を持って間違った答えを出すかもしれません。基礎となるモデルを装備して効果的に質問に答えるには、誰かが休暇を取るたびに、会社のデータに合わせて微調整する必要があります。
RAG の利点とは?
RAG を生成 AI アプリケーションに統合すると、さまざまな利点が得られます。
- 微調整に代わるコスト効率の高い代替アプローチ: 多くの場合、組織は RAG を使用することで、独自のドメインやデータに合わせて LLM をカスタマイズすることができ、モデルの再トレーニングや微調整にかかる時間やコストを大幅に削減できます。これにより、従業員や顧客に適切かつ有意義な AI 結果を提供できる生成 AI モデルの導入にかかる時間を短縮できます。
- より信頼性の高い結果: 専門家は、世界で最も普及している LLM が、2~22% の頻度で不正確な出力、つまり「幻覚」を生成していると推定しています。1 LLM に、信頼性の高い知識源から追加の文脈を提供することで、RAG は LLM の精度を向上させ、幻覚を低減します。また、RAG はソース引用も提供できるため、ユーザーは回答やリサーチトピックについて、事実確認をさらに進めることができます。
- 最新のインサイト: RAG を使用することで、企業はモデルに新しいデータを継続的に取り込むことができ、急速に変化するトピックでも LLM を最新の状態に保つことができます。RAG ベースのモデルは、ウェブサイトやソーシャルメディアのフィードなどのソースに直接接続し、ほぼリアルタイムの情報に即した回答を生成することも可能です。
- データ・プライバシーの強化: 外部のナレッジベースをローカルまたはプライベート・データセンターに保存できるため、RAG では、組織が機密データをサードパーティーの LLM と共有する必要がありません。組織は、データを安全に保ちながら、モデルをカスタマイズし、導入できます。
RAG の仕組み?
従来の LLM は、記事、ビデオの文字起こし、チャットフォーラムなど、インターネットから収集した膨大なデータに基づいてトレーニングされます。RAG システムでは、プロンプトに応答する前に、カスタムビルドのナレッジベースから情報を相互参照する検索メカニズムが追加されます。追加された情報により、LLM のトレーニングは強化され、その結果、ユーザーや組織のニーズにより合致した回答が得られます。
RAG ベースの LLM ソリューションを実現するには、最初にナレッジベースを構築する必要があります。このプライベートなデータ収集には、会社要覧や製品概要など、さまざまなテキストベースのソースを含めることができます。効率的な処理のためには、重複した情報の削除などデータのクリーンアップや、データを管理しやすい塊に分割するなどの作業が必要です。次に、埋め込みモデルと呼ばれる特殊な AI モデルが、テキストをベクトル (テキストの数式表現) に変換し、文脈や単語間の関係を把握します。高速検索のため、ベクトルはベクトル・データベースに保存されます。
ユーザーまたはサブシステムがクエリーを送信すると、そのクエリーはワークフローのコア・コンポーネントである検索メカニズムに渡されます。このメカニズムは、関連性の高い一致をベクトル・データベースで検索し、最も関連性の高いデータを追加のコンテキストとして、LLM と共有します。
その後、LLM は、外部データとトレーニングを組み合わせて最終的なレスポンスを生成し、ユーザーが文脈に沿った正確で意味のある回答を受け取れるようにします。
これらの手順の詳細については、RAG の導入方法に関する記事をお読みください。
RAG の使用事例?
さまざまな業界の組織が、RAG を使用して従業員の生産性を向上させ、パーソナライズされた体験を提供し、運用コストを削減しています。
RAG がどのように業界を変革しているか、その例をいくつか紹介します。
- パーソナライズされたショッピング体験: RAG ベースの小売レコメンデーション・システムは、検索エンジンや X (旧 Twitter) などのソースから、リアルタイムの顧客の好みや市場トレンドを収集できます。これにより、販売店は買い物客それぞれに、最新のパーソナライズされた商品レコメンデーションを提案できます。詳しくはこちら。
- 製造予測メンテナンス: 過去のパフォーマンス・データ、機器固有のデータ、ライブセンサー・データを活用することで、RAG ベースの異常検出システムはトラブルの早期の兆候を用いて機器の異常を検出できるため、製造元はダウンタイムが発生する前に潜在的な問題に対処できます。複雑な機械に関する深い知識により、RAG システムは、従来のシステムでは見過ごしがちだった機器の速度と精度の微妙な変化を検出できます。詳しくはこちら。
- 金融サービス AI アシスタント: RAG ベースのチャットボットにより、リアルタイムの市場トレンドと規制情報からなる複雑なウェブを合成し、カスタマイズした実用的な金融アドバイスをタイムリーにユーザーに提供できます。この強力な AI アシスタントは、金融機関が、進化し続ける規制に準拠しながら、大規模な顧客ベースに対してカスタマイズされたアドバイスを提供するのに役立ちます。詳しくはこちら。
RAG 導入に向けた次のステップ
生成 AI と LLM の価値とビジネスチャンスを捉えようとするとき、微調整よりも RAG を利用した方が、カスタマイズされた LLM アプリケーションの導入にかかる時間を短縮できます。RAG パイプラインの詳細について学び、効率的な実装を可能にするツールを紹介します。
インテルによる RAG のビルディング・ブロック: RAG パイプラインの主要コンポーネントについて詳しくはこちら。
RAG の導入方法: RAG パイプライン全体で、インテルのハードウェアとソフトウェアの推奨事項を確認できます。
インテル® Tiber™ AI クラウド: インテルのハードウェアとソフトウェアで RAG パイプラインの重要な側面をテストできます。