増加し続けるデータセットに基づき、スマートかつ迅速に意思決定を行う方法
現在、ビジネス上の問題の多くは、極めて大規模かつ多様なデータセットの分析が必要とされ、手に負えないほど複雑なものになることもあります。例えば、企業は「自社のコミュニティー・ウェブ・フォーラムが迷惑な書き込みで溢れかえっています。迷惑な書き込みを停止するスパム対策アプリケーションを IT 部門で構築することはできますか?」といった課題に直面することがよくあります。
このような複雑でデータ負荷の高い問題を解決するには、従来のビジネス・インテリジェンス (BI) システムやルールベースの分析システムでは力不足かもしれません。クラウドや、ソーシャルメディア、スマート・モバイルデバイス、IoT からビッグデータが洪水のように押し寄せる現代の変化し続けるビジネス環境では、このような従来型のアプローチは先見性や柔軟性に欠ける場合があります。膨大な量のデータ資産への対応を含め、急速に変化する課題を正しく理解して解決するために、医療、銀行、輸送、製造、教育、小売など、あらゆる産業の企業が、マシンラーニングを活用することで分析能力をアップグレードしています。
人工知能 (AI) の一部であるマシンラーニングは、反復的に「学習」と適応を行う特殊なソフトウェア・アルゴリズムを使用して、大量のデータセットを選別するプログラムを実現します。マシンラーニングにより、企業や組織は、パターン、洞察、傾向を見出し、それに基づいて行動できるようになります。また、マシンラーニングは、時間の経過とともに、人の介入なしにより優れた成果をもたらすようになります。このようなメリットにより、マシンラーニングは日々、主流のテクノロジーとしての地位を固めています。学習するコンピューターは、さまざまな業界の実環境で応用され、その分野は IoT データ分析や、コンピューター・サーバー・モニタリング、広告ターゲティング、画像認識、経路スケジューリング、遺伝子シーケンシング、ゲーム、自動運転車、エネルギー探査、顔認識など、多岐にわたります。
マシンラーニングは、手動分析や従来型 BI、ほかの AI アプローチよりもはるかに迅速かつ確実に、極めて大規模なデータセットからデータ駆動型の洞察や高度で実用的な意思決定を引き出します。また、業務の効率性を高め、セキュリティーを強化し、顧客の行動に合わせた新しい製品やサービスを提供する、データ駆動型の革新を促進します。
よりスマートな内部業務プロセスを構築する
Bain & Company が行った最近の調査によると、マシンラーニングとデータ分析を活用する企業は、データ駆動型の意思決定を行う可能性が 2 倍、競合他社よりも迅速な意思決定を行う可能性が 5 倍、意思決定を迅速に行動に移す可能性が 3 倍、上位 4 分の 1 の財務成果を実現する可能性が 2 倍という結果が得られました。多くの組織にとって、マシンラーニングによるビジネス・インテリジェンス成熟度曲線の上昇は、マシンラーニングを使用して主要な内部業務プロセスを改善することから始まります。
高レベルの例としては、次のようなケースがあります。
雇用や従業員のパフォーマンス向上: グローバル展開するファストフード企業では、マシンラーニングを活用することで、人材獲得、人材維持、従業員パフォーマンスに関する洞察を導き出しています。複数の統合データソースに対して予測モデリング手法を活用することで得られるこのような「人材分析」は、人事データに関する深い洞察をもたらします。
マーケティングのカスタマイズ: イタリアの大手銀行は、顧客データの分析と隠れたビジネスチャンスの発見に、認知分析システムを構築しました。このアプローチにより、ターゲットを絞ったアウトバウンド・マーケティング・プログラムが誕生し、コンバージョンが大幅に改善しました。
価格見積のカスタマイズ: ある大手のグローバル・ソフトウェア会社は、マシンラーニングに基づいて価格見積をコンピューター化することで、さまざまな顧客や見込み顧客ごとにターゲットを絞り込んだ的確なオプションを提供しています。この会社は、マシンラーニングをカスタマー・リレーションシップ・マネジメント (CRM) システムやエンタープライズ・リソース・プランニング (ERP) システムに統合することで、精度の高い予測を実現しています。
個別化医療: 医療現場でのマシンラーニングの活用が増え、最も費用対効果に優れたパーソナル治療オプションとされるデータ駆動型の高精度医療アプローチを推進しています。
医療をはじめとする各業界でマシンラーニングを早期から導入している企業は、効率性の改善や、新たな発見、製品やサービスの改善、より豊かな顧客体験の提供を通じて、ビジネスの変革を実現しています。
1.迷惑な書き込みを停止するスパム対策アプリケーションを IT 部門で構築することは可能ですか?
マシンラーニングの中核的なメリットの 1 つは、急速に変化する状況下でも、膨大なデータプール内に異常なパターンが存在していないか識別できる能力です。そのため、セキュリティー分野の迅速な問題検出やリスク軽減に適しています。例えば、マシンラーニング・アルゴリズムによって、クラウドデータに対するアクセスのパターンを検出し、セキュリティー侵害の可能性のある異常発生をレポートすることができます。決済処理担当者は、学習アルゴリズムを活用することで、クレジットカードやデビットカード利用者の購入パターンを監視し、異常な購入金額、通常と異なる業者との取引や地域での利用など、不正行為の可能性を警告することも可能です。
例えば、インテル コーポレーションでは、マシンラーニングの仕組みを活用して、顧客、パートナー企業、従業員が利用するウェブサイトのコミュニティー・フォーラムで迷惑なメッセージの調査と停止を行っています。インテルの大規模フォーラムの 1 つには、1 日に 1 万件ものスパムが殺到していました。
「ボランティア管理人を募集して迷惑な書き込みを削除する」という通常の対応策では、規模の大きさの前に歯が立たず、スタッフの時間を浪費していくだけでした。また、フィルタリングを使用して問題を解決することもできず、新しいスパムボットが次々と出現し、特定の単語やフレーズをブロックする一般的なルールを定義することは、ますます困難になっています。そこには、カジノやギャンブルを宣伝する国外からのメッセージや、インテルのエンターテインメント産業の顧客からのメッセージが混在していました。
悩みが尽きないため、インテルの IT 部門では、別のソリューションに着手しました。すでに、PC の稼動状況モニタリングや工場プロセスなど、さまざまな分野で自動化を取り入れ、効率性と有効性を高めていたため、自動スパム管理システムにもマシンラーニングを活用してみることにしました。インテルのエンジニアは、高度なマシンラーニング・テクノロジーを利用して、不要なメッセージや悪意のあるメッセージを自動的にブロックするスパム・フィルタリング・サービスを構築しました。テキスト分析により、75 の言語で、不快感を与えたり攻撃的なコンテンツを検出することができます。また、評価エンジンがユーザー・プロファイルをモニタリングして、特定の送信元がスパムを書き込む可能性を判別します。
このプログラムを導入した直後から攻撃は激減し、それ以来スパムの量は管理可能なレベルに保たれています。サービスが動的に学習し、不要なメッセージをブロックするため、迷惑な書き込みが急増することはほとんどなくなりました。
2.センサーをスマートに利用するにはどのようにすればいいですか?
多くの企業にとって、マシンラーニングの最も価値の高い利用方法は、モノのインターネット (IoT) や産業向け IoT (IIoT) に接続されている膨大な数のセンサーや各種デバイスから収集される膨大なデータを理解し有効に活用することです。この 1 年の間に、自動車メーカーや、工作機械メーカー、製薬会社、運送業者、その他各種産業の企業が、自律型製造の基盤として、IoT 内でマシンラーニングとデータ分析の利用を開始し、拡張するようになりました。
例えば、Siemens AG は、自律型製造工場を確立するための第一歩として、「MindSphere*」というクラウドベースのオープン IoT エコシステムを構築しました。この堅牢なデジタル・プラットフォームは、IoT 経由で接続されている機器に搭載された製造制御システムや各種センサーが生成するデータを取得、保存、分析します1。同社のグループ企業ではマシンラーニングを活用してこのデータを調査し、サプライチェーン全体を分析しています。これにより、各国に展開する業界最大手のグループ全体で、製造ラインのどの部分を改善すると最大のメリットを実現できるのか判断することができます。このような「スマートデータ」を通じて、Siemens のマネージャーは、機器の稼動時間を調整し、製造作業の効率を向上させる実用的な洞察を得ることができます。
マシンラーニングとデータ分析は自律型製造の基盤であり、将来的にはほぼすべてのプロセスがデジタルベースとなり、高度に自動化されるものと見込まれています。学習アルゴリズムの急速な成熟により、さまざまなメーカーが、大量のデータをリアルタイムで収集、保存、分析し、そのデータを実用的な情報セットに変換できるようになりました。さらに重要なことに、マシンラーニングによって、環境、ユーザー、履歴に関する動的マシンラーニング機能を備えたプロアクティブ・デバイスを追加できるため、アナリストの業務上の意思決定が支援され、企業のスマート化が促進されます。
3.利用者全体の金融履歴を集約して、不正行為の検出に役立てることはできますか?
現状の業務プロセスを改善することは、マシンラーニングの力を活用する第一歩にすぎません。マシンラーニング・アプローチは、これまで不可能だった洞察をもたらし、新しい製品やサービス、新しいビジネス方法を引き出します。産業全体を変革する可能性を秘めているのです。
小売産業について考えてみてください。従来型の実店舗は、互いの競争とオンライン上のライバルとの競争の中、絶えず自己を変革する取り組みを続けています。専門家によると、小売業が成功する可能性、存続できる可能性は、オンライン販売と店頭販売を組み合わせて、顧客ごとのきめ細かいパーソナライズ販売ができるかにかかっています。ある小売企業は、「顧客が何に興味を持っているか把握し、適切なタイミングでその商品を提示できれば、販売プロセスからさまざまな摩擦を取り除くことができる」と話しています。それには、接続デバイスと分析ソフトウェアを組み合わせることが必要となります2。
この企業は、実店舗内のセンサーとマシンラーニングを活用したアプリケーションを開発することで、顧客ごとのスタイルの好みや購入傾向を把握、分析し、服飾デザイナーに方向性を伝えています。
また、商品の購入履歴から顧客の元々の目的に基づいて別の商品を追加で提案するアプリケーションも導入しています。例えば、顧客がブランドのオンライン販売サイトからシャツを購入していた場合、AI ベースのプラットフォームが、「見た目の統一感」を図れる追加の衣類やアクセサリーのメニューを提示します。このアプローチにより、実店舗の収益が大幅に向上しています。実際、この小売企業は現在、毎日 450 万件のお勧めを顧客に提案しています。センサーとオプション提案アプリケーションの両方を通じて、顧客の好みや行動に関する貴重な情報を入手し、販売方法やサービスのパーソナライズと改善に活用しています。
大手小売企業がマシンラーニングとデータ分析に焦点を当てるようになり、業界全体で変革を目指す取り組みが進む中、データが大きな原動力となり始めていることは明らかです。Lowe's* Home Improvement や Amazon* Go 食料雑貨店などの小売企業も、センサーを搭載したロボットを導入することで、リアルタイムに棚を調査して在庫を最適化するようになり、この傾向はますます強くなっていくと思われます。小売業界のこういった例は、マシンラーニングがもたらすビジネスチャンスを明確に示しています。このテクノロジーを採用するかしないかという方針の違いが、その企業が業界の革新者となるのか、それとも敗者として変革の波に飲み込まれるのかを決定します。
マシンラーニングのメリット実現をインテルが支援する仕組み
マシンラーニングとデータ分析は、スマートで迅速かつ効率的に、企業の革新を促します。より優れた敏速なリアルタイムの意思決定が、業務の改善や、新しい製品、新しいビジネスモデルを推進し、真の競争力を実現します。インテルは、マシンラーニングの試験的導入を開始したばかりの企業に対しても、大規模な高度分析プロジェクトに取り組んでいる企業に対しても、マシンラーニング・テクノロジーに必要とされる安定したエンドツーエンド・アーキテクチャーを構築するためのさまざまなリソースとテクノロジーを提供します。
パフォーマンスに最適化されたインテルのポートフォリオと豊富なソリューション・エコシステムにより、高度なマシンラーニング分析に向けた拡張がサポートされます。そのためにインテルは、ビッグデータの分散型ストレージや分散処理のフレームワークを提供する業界トップのシステム・インテグレーターやテクノロジー・ベンダーと提携しています。
インテルのエキスパートと経験豊かなパートナー企業は、マシンラーニング・テクノロジーと実装のさまざまなニーズに対し最適な決断を下せるように企業や組織をサポートします。
結論として、マシンラーニングに基づく分析の時代が到来したことは明らかです。インテルは、自社のビジネス、顧客、パートナー企業のすべてにとって、マシンラーニングの価値を実証してきています。