kids using computers in class computer lab rwd

学校に STEAM とメディアラボを

国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター 主幹研究員 准教授 豊福 晋平 先生

学校にテクノロジーの拠点メディアラボを作りましょう。メディアラボは 1 人 1 台 GIGA スクール時代にこそ必要な創造の場です

  • メディアラボは、これまで学校にあった PC 教室を発展させた子供たちの創造拠点です。

  • 大きなディスプレイ・モニター、動画編集や 3D CG を可能にするハイエンドな PC、3D プリンターなど多様なデバイスを備えたメディアラボが、GIGA 端末より高い機能を求める学習者をサポートします。

  • インテルの教員向けの研修 Skills for Innovation で推進している STEAM 教育でも、子供たちの実作業 (ハンズオン) の場所として、メディアラボは活用できます。

学校にテクノロジーの拠点メディアラボを作りましょう。
メディアラボは 1 人 1 台 GIGA スクール時代にこそ必要な創造の場です。

文部科学省が進める GIGA スクール構想によって全国の小中児童生徒には 1 人 1 台の PC が手渡されます。では、これまで存在した学校の PC 教室は不要でしょうか?いえ、学校日常のデジタル化が進めば、子ども達は文房具としての端末を自在に使いこなして、さらなる高みをめざした挑戦がはじまります。そんなとき、手持ちの小さな端末ではちょっと足りないところ、こうだったらいいのに、を身近でかなえる環境が創造性を育みます。

メディアラボとは何でしょう?

1: GIGA 端末である子ども達の文房具を大幅に機能拡張し、STEAM プログラムが志向するような高度で多様な創造活動を支えます。
もっと広々した画面で作業を…備え付けの大型ディスプレイを接続して簡単に画面拡張
もっとパワフルな処理能力を…膨大で複雑なデータをハイパフォーマンスなマシンで処理
もっとハイクオリティーな創作・工作の環境を…撮影録音のスタジオ・収録 / 編集機材、デジタル組版のための編集アプリケーション、3D プリンターやレーザーカッターなどを自在に活用

2: 数よりも多様性を、学習者がそれぞれ求める機能や環境を提供します
学習者によって求める用途は異なります。与えられた課題を全員同時にこなすような演習室の規模は必要ありません。

3: 学習者のクラウド情報基盤を最大活用します
学校でも家庭でもあるいはそれ以外の施設でも、子ども達の創造活動をつなぐのは日々使うクラウド情報基盤です。GIGA 端末や手持ちのスマートフォンでクラウドに学びの足跡 (文書・写真・音声など) を蓄積し、メディアラボで編集・構成の作業を行う流れを重視します。

メディアラボのモデル: ヘルシンキ中央図書館の映像編集スペース

STEAM プログラムとメディアラボ

STEAM は Science (科学) Technology (技術) Engineering (工学) Mathematics (数学) といったハイテク産業を牽引する主要な学問分野に加え、デザイン思考や幅広い教養、Arts つまりリベラルアーツの要素を組み込んだ新しい学びを総称する用語です。

STEAM プログラムは、子ども達の表現やものづくりを磨き、物事を深く考え試行錯誤し、人々を納得させ、楽しませるためのトピックと方法を提供します。

STEAM プログラムは、子ども達の生活とつながりをもちます。授業の STEAM プログラムで得られる知識やスキルはオープンで汎用のものなので、授業外の普段の子ども達の日々の学びに還元されます。

メディアラボのモデル: ヘルシンキ中央図書館 (Oodi) の 3D プリンター設備

メディアラボは創造の場

ドキュメンタリー映画 “Most Likely to Succeed” で話題になった米国サンディエゴのハイスクール HTH (High Tech High) では、主軸となるプロジェクト型学習 (PBL: Project Based Learning) を展開するため、さまざまなデジタル機器や工作機械を駆使する様子が映像にも頻繁に登場します。情報社会でデジタルやオンラインの膨大な情報を扱うのが当たり前になれば、子ども達の表現やものづくりもまた高度に多様になります。それらの動きやニーズに対応し、個性的な創造の場を提供するのがメディアラボです。

PC の演習室からメディアラボへ

すでに子ども達が 1 人 1 台の PC を持ち歩き、日々の学びに文具として活かすのが当然の学校では、以前の PC 演習室のような設備はもう必要ないのでしょうか?

いえ、そんなことはありません。子ども達を取り巻く PC やそれらの施設との関係は、この数十年で大きく変わってきました。PC 演習室は非日常的・集中的に PC に慣れさせるためのもので、児童生徒全員が与えられた課題を同時・同様にこなすための施設でした。1 人 1 台の PC が実現したことで、一般の教室でも学校外でも児童生徒は必要と場面に応じて、自身が選択判断して使う文具になろうとしています。PC 演習室からはかつての目的が失われたのは明らかです。

しかし、児童生徒に手渡される GIGA スクール仕様の端末は、大規模な導入のため文具としては最低限のものであることを理解しておかねばなりません。画面サイズは 10 ~ 13 インチと狭く、CPU のパワーや搭載されたメモリーやストレージも限定的です。一般的な教室での授業や、テキスト中心の作業であれば大きなストレスはありませんが、例えば、大量の動画や音声の編集や 3D グラフィックスなどマシンパワーを要する用途には向きません。

メディアラボは、普段の座学授業とは違ったプロジェクト型学習、高度な創作活動を円滑に行うための設備・施設です。手持ちの GIGA スクール仕様の端末では十分でない機能を拡張し、学習者の多様なニーズに応えるために用います。

メディアラボの機能とはなにか?

1 人 1 台文具としての端末を使う子ども達から起こるニーズとその対応とは、次のようなものです。

“12 インチの画面では複数のウィンドウを開いて作業出来ない”
児童生徒のスキルが向上すれば、複数ウィンドウを開いて参照しつつ進める複雑な作業へのニーズが高まります。多くの端末は外部ディスプレイを接続して画面の拡張が可能です。27 インチ以上の大型ディスプレイのみ (PC なし) を備え付けにしたテーブルを配置すれば、必要な時に接続して広々と作業出来ます。

大型ディスプレイの拡張 (かえつ有明中高)

“動画や 3D データを扱うには非力過ぎる”
創作活動がより高度になれば、複雑で大量の情報処理が要求される作業が必要になってきます。GIGA スクール仕様の端末では十分扱えない作業、たとえば、デジタル組版、動画編集、3D データ・レンダリングなどの作業は、ハイグレードのマシンとプロ仕様のアプリケーションを用いて行います。元になるデータや素材は手持ちの端末やクラウド情報基盤と円滑にやりとりして行えます。

“もっとレベルの高い撮影機材や環境、ものづくりの工作機械が欲しい”
STEAM プロブラムと子ども達の創作活動がマッチすると、創作・表現の手法はより高度化され、例えば、収録スタジオ、クロマキーのためのグリーンバックなどの設備、撮影録音のためのカメラ・照明・音声収録のための機材や編集のためのアプリケーションが必要になります。また、3D データを実体化するための 3D プリンターやレーザーカッターのような工作機械があると便利です。
いずれの場合も、子ども達が普段使う 1 人 1 台端末の環境を前提として、クラウド情報基盤に素材や編集データを蓄積しておき、必要に応じてメディアラボ機能を拝借するのがこれからの活動スタイルになるでしょう。

メディアラボはだれが使うのか

メディアラボは、児童生徒の全員が等しく身に付ける知識スキルを扱うわけではないので(全員が等しく身に付けるレベルは 1 人 1 台端末で扱い可能です)、かつての PC 演習室のような導入規模は必要ありません。
例えば、総合の学習や探究の時間では、学習者各自あるいはグループで扱うテーマは異なるので、条件と必要に応じて拡張機能が選択出来ることが一応の基準になるでしょう。授業外でも、児童生徒会委員会活動や部活動で、あるいは、教職員の教務として扱えることを想定します。

メディアラボはどこに作るのか

メディアラボは全ての児童生徒が使うわけではありませんが、拡張された機能や高度な創作活動に子ども達が触れることは大切です。高価な機材設備の管理上の問題を別とすれば、子ども達が普段から出入りする図書館や共有スペースに自在に使える空間として用意することが考えられます。
学校ではありませんが、2019年開館したばかりのヘルシンキ中央図書館 (Oodi) は広い公開スペースに映像制作や洋裁のセクションが設けられ、大判プリンターや 3D プリンターなどの工作機械も必要に応じて自由に使えるようになっています。

メディアラボを加速させる STEAM プログラム

STEAM 教育は、米国オバマ元大統領が演説で述べたことで注目されるようになりました。元は Science (科学) Technology (技術) Engineering (工学) Mathematics (数学) の頭文字を取って STEM と呼ばれていたものに、Arts (芸術・人文社会科学) の要素が加わり、AI など先端的な科学技術によって社会変革を起こす人材育成を目標にすることが国家戦略に据えられました。

我が国では、プログラミング教育の充実が先行していますが、STEAM 教育は一般的な教科の学習においても多様な接点を持ちます。インテルの STEAM 教育向け教員研修 Skills for Innovation では 1: デザイン思考、2: 計算的思考 (プログラミング的思考)、3: シミュレーションとモデリング、4: データサイエンス、5: AI と機械学習、6: デジタルコンテンツ制作の 6 つのテーマに基づいたトピックと具体的な方法を提供します。

子ども達は、プログラムで提供されるオープンで汎用のツールを駆使し、メディアラボで実際作業する (ハンズオン) ことを通じて、その知識やスキルをより効果的に日々の学びに還元することが出来ます。